「GLUE」ひとつで生ベースとシンセが溶け合う ― Vaundyが明かす、低音を”実在”させる方法

Vaundyが「GLUE」ノブで生ベースとシンセベースを融合させる制作手法をイメージした抽象デザイン(テープ機材風の質感のGLUEコントロールと波形のイラスト) 著名アーティストの使用プラグイン情報
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「踊り子」で第75回NHK紅白歌合戦にも出演し、作詞・作曲・編曲・歌唱だけでなくレコーディングやミックスにも自ら深く関わることで知られるVaundy。2024年発売の2ndアルバム『replica』(CD2枚組・全35曲)をめぐるサンレコ(Sound & Recording Magazine)のインタビューでは、Cubaseの実プロジェクト画面まで公開しながら、楽曲ごとの音作りの舞台裏が語られている。

中でも興味深いのが、「生ベースの質感」と「シンセベースの低域」を1本の音として成立させるためにVaundyが使っている、あるプラグインのたった1つのパラメータだ。宅録でベースを弾いても迫力が出ない、かといって打ち込みだけだと安っぽくなる――そんな悩みを持つDTMerにとって、そのまま応用できる考え方がここにある。

なお元インタビューはサンレコの有料会員限定記事であり、この記事はその内容をそのまま書き写すものではない。以下は要点を絞ったうえで、PatchNote DTMとしての技術的な解釈・応用方法を中心にまとめたものだ。より詳しいニュアンスが気になる方は、ぜひ元記事も購読して読んでみてほしい。

Vaundyとは ― “全部ひとりでやる”世代のヒットメーカー

Vaundyは、作詞・作曲・編曲はもちろん、歌唱・演奏・レコーディング・ミックスの一部までを自ら手がけることで知られるシンガーソングライター。「踊り子」「怪獣の花唄」「recall」などのヒット曲で知られ、2024年の第75回NHK紅白歌合戦にも「踊り子」で出場している。もともとはDAW一本で楽曲を完成させる、いわゆる”宅録”出身のクリエイターであり、現在も自身のスタジオでの録音や打ち込みを軸に制作を進めている。DTMerにとって、彼の制作フローはまさに「自分たちの延長線上にあるプロの到達点」と言える。

生ベースとシンセベースを”GLUE”で貼り合わせる

Vaundyが語った手法はシンプルだ。まず土台として TOONTRACK EZ BASS で打ち込んだベースラインの上に、XFER RECORDS SERUM で作ったシンセベースをレイヤー(重ね)する。ここまでは多くのDTMerもやったことがあるはずだが、Vaundyの場合はさらに、そこに生ベースの録音を重ね、 3つの音源を1本のベースとして成立させている点がユニークだ。生ベースは主に3~4弦やハイポジションを中心に弾くことで中〜高域のニュアンスを担当させ、足りない低域の量感はシンセ側で補う、という役割分担を意識しているという。この発想は、はっぴいえんどのレコーディング手法から着想を得たそうだ。

ただし、質感も立ち上がりもまったく違う複数の音を単純に重ねるだけでは、位相のぶつかりやアタックのズレで低音がぼやけてしまう。そこでVaundyが使っているのが BABY AUDIO. TAIP というテープ・サチュレーション系プラグインの「GLUE(接着剤)」というパラメータだ。本人はこう語っている。

「GLUEを用いると低域はコンプがかかった感じになりますが、聴きたい帯域はしっかり鳴らしてくれるので気に入っています」

GLUEパラメータは、名前の通り複数の音を「1つの塊」としてまとめ上げる役割を持つ。低域全体に軽くコンプレッションがかかったような一体感が生まれる一方で、聴かせたい帯域(ベースの芯の部分)はしっかり残るよう設計されている、という理解でよさそうだ。

なぜこの手法がDTMerに効くのか

多くの宅録DTMerは「生ベース」か「打ち込みベース」かの二択で悩みがちだが、Vaundyの手法はその二択自体を疑うところから始まっている。生ベースに「低域の量感」を無理に求めず、そこはシンセに任せる。逆にシンセベースに「人間的な揺らぎ」を求めず、そこは生演奏に任せる。役割を分けたうえで、最後に接着剤(GLUE)で1本の音として馴染ませる――この「分業→統合」という発想そのものが、テクニックの核心だと言える。

TAIPを持っていなくても、この考え方自体は再現できる。両方のベーストラックをまとめたバスに、比較的強めのコンプレッサー(レシオ4:1〜8:1程度、アタックは速め・リリースは短め)を軽くかけ、両者が同時に鳴る瞬間だけ音量差を圧縮してあげると、似た「一体感」が得られやすい。強くかけすぎず、あくまで”存在感を揃える”程度に留めるのがコツだ。生ベース単体・シンセベース単体をそれぞれ主役にしようとせず、最初から「合わせて1つの楽器」として設計する意識を持つだけでも、宅録ベースの安っぽさはかなり軽減できるはずだ。

「踊り子」のDAW画面から見えた、打ち込みの実際

インタビューでは「踊り子」制作時のCubaseプロジェクト画面も公開されている。ベースとギター以外のパートはほぼ打ち込みで構成されており、使用プラグインは以下の通り。

  • ドラム:xln audio ADDICTIVE DRUMS
  • エレピ:SPECTRASONICS KEYSCAPE(7トラックにも及ぶレイヤー)
  • EQ:WAVES V-EQ4
  • ベースアンプ・シミュレーター:Cubase付属 VST Bass Amp
  • シンセ(ミュート中のトラックも含む):Cubase付属 Retrologue

「踊り子」はVaundyにとって、それまでの打ち込み主体のサウンドから一歩抜け出せた曲だったという。派手な裏技があるわけではなく、Keyscapeのような質感の強い音源を惜しみなく何層にも重ね、EQやアンプシミュレーターで生々しさを足していく――地道な音の積み重ねの結果として「打ち込み感のなさ」が生まれていることが、公開されたトラック構成からも読み取れる。エレピを1トラックではない7トラックに分けてレイヤーしている点は、単一の音源のプリセット感を消すための工夫として参考になるだろう。

「全部がサビ」――Vaundy流メロディ作法

「踊り子」は同じコード進行をループさせる構成の楽曲だが、Vaundyはメロディについてこう語っている。

「どのセクションでもサビになるように意識してメロディを作っているんです。全部がサビ」

一方でAメロは意図的に音数を減らし、”Aメロらしさ”を出す。同じコード進行の中でメロディの引き出しだけを変えていくこの手法は、海外のループベースのポップ/ダンスミュージックでよく使われる作曲観を、日本語ポップスに応用したものだと考えられる。コード進行を作り込む前に、まず「このセクションはサビ級の強さを持たせるか、あえて抜くか」をメロディ側で設計してみるだけでも、単調になりがちな打ち込み楽曲に変化を作れるはずだ。

レコードノイズも自作する ― J37 Tapeが作る”NEO JAPAN”の肌触り

イギリス滞在中に自宅スタジオ(Mac Studio持参)で制作したという「NEO JAPAN」。この曲の冒頭で聞こえるレコードノイズは、実物のレコードではなく WAVES J37 Tape というテープ・エミュレーション・プラグインで後から作り込まれたものだという。Vaundyは WAVES Horizon バンドルを所有しており、こうしたテープ系のプラグインを楽曲の”質感づくり”に多用しているようだ。アナログ機材をわざわざ持ち出さなくても、プラグインだけで「レコードで聴いているような」体温を持たせられることを示す好例と言える。

ドラムに関しては、いつも同じ答えを出す

数多くの音源を使い分けるVaundyだが、ドラムの打ち込みに関しては迷いがないという。

「僕はデモにおけるドラムの打ち込みでは、今は絶対にTOONTRACK SUPERIOR DRUMMERを選びます。理由は音がリアルだからです」

一方でディスク2に収録された過去曲では xln audio ADDICTIVE DRUMS も使用しており、楽曲の作られた時期によって使用音源が変化していることも読み取れる。「今の自分の基準」を持ちつつ、過去の楽曲の音源選びも尊重して残しているあたりに、35曲という大ボリュームのアルバムを”年表”として構成した本人のこだわりが感じられる。


以下は、この記事で紹介したプラグイン・音源の公式情報だ。なお、これらはあくまでVaundyがインタビューで使用を明かした製品の情報として紹介するものであり、本人や製造元がPatchNote DTMや下記の購入リンクを推薦・提携しているわけではない。

この記事で紹介した製品の公式情報

Steinberg Cubase(DAW本体。Vaundyが一貫して使用。)
公式サイト

BABY AUDIO. TAIP(テープ・サチュレーション/AI搭載。生ベースとシンセベースを”GLUE”で統合する際に使用。)
公式サイト
価格: セールにより変動(公式サイトで要確認。セール時は数千円台まで下がることが多い)

BABY AUDIO. SPACED OUT(リバーブ/ディレイ/モジュレーション)
公式サイト
価格: セールにより変動(公式サイトで要確認)

sonible smart:reverb(AIが素材を解析して自動でリバーブを生成)
公式サイト
価格: 通常129ドル、セール時79ドル程度(2026年8月時点、公式サイトで要確認)

SONIBLE SMART:REVERB 2
SONIBLE SMART:REVERB 2
販売元: Rock oN Company
購入する

WAVES J37 Tape(Abbey Road Studios監修のテープ・サチュレーション)
公式サイト
価格: サブスクリプション/バンドル(Waves Horizon等)への同梱が中心。公式サイトで要確認

WAVES J37 Tape
WAVES J37 Tape
販売元: サウンドハウス
購入する

Toontrack Superior Drummer 3(Vaundyが「今は絶対に選ぶ」と語るドラム音源)
公式サイト
価格: 通常399ドル(2026年8月時点、公式サイトで要確認)

Spectrasonics Keyscape(「踊り子」のエレピで多層的に使用)
公式サイト
価格: 399ドル(2026年8月時点、公式サイトで要確認)

Xfer Records Serum(Serum 2)(シンセベース制作に使用)
公式サイト
価格: 249ドル、Serum 1所有者は無料アップグレード(2026年8月時点、公式サイトで要確認)

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