Zeddとは
Zedd(本名Anton Zaslavski)は、ドイツ・カイザースラウテルン出身のプロデューサーです。両親がロシア出身のクラシック音楽家(父はギタリスト、母はピアノ教師)という家庭に育ち、3~4歳からピアノを習っていたという生粋の音楽一家出身です。バンドでのメタル経験を経て、フランスのエレクトロデュオJusticeに衝撃を受けたことをきっかけに電子音楽の制作を始めました。
2013年の「Clarity」(Foxesがボーカル参加)でグラミー賞(Best Dance Recording)を受賞し、その後もAriana Grande、Selena Gomez、Alessia Caraなど数々のポップスターと組んだ楽曲でヒットを連発。EDMという枠を超えてポップシーンの中心で活躍し続けているプロデューサーです。
今回参考にしたのは、老舗の音楽制作専門誌Sound on Soundによるインタビュー記事です。機材選びの理由から曲作りの手順まで、かなり具体的に語られています。
14歳からずっとCubase、それでも文句は言う
Zeddは14歳の頃にバンド仲間が使っていたのがCubaseだったという理由だけで、以来ずっとCubase一本で制作を続けています。エディット速度の速さは他のDAWに負けないと胸を張る一方で、サンプラー機能の実装が長らく遅れていたこと、オートメーションの見づらさについては「ひどい」とはっきり不満を述べています。
面白いのは、Cubaseにサンプラーがなかった時期が長かったことを「むしろ良かった」と捉えている点です。手っ取り早く「それっぽい音」のサンプルに頼れなかった分、ソフトシンセで音を作ることに集中せざるを得なかった、それが結果的に自分の音作りの土台になったと振り返っています。ちなみに内蔵プラグインや内蔵音源はほとんど使わず唯一使うのはトランジェント・デザイナーの「Envelope Shaper」程度とのことです。
メインはSerum、ピアノは20ドルのプラグインで十分
Zeddが「現時点でおそらく世界最強のソフトシンセ」と評しているのが、Xfer Records「Serum」です。オシレーターだけでなくオーディオクリップをそのままレイヤーできる点を評価しており、たとえばキックの立ち上がり部分をシンセ音のアタックに重ねることで、パンチの効いたベースサウンドを作れると説明しています。
他にもTone2「Gladiator」、Lennar Digital「Sylenth1」を使うほか、映画的な音作りにはNative Instruments「Damage」を使用。ピアノ系の音色にはreFX「Nexus」を使っており、「たった20ドルのプラグインがこんなに良い音を出すなんて信じられない」と評しています。逆にNative Instruments「Kontakt」については、ピッチ処理やポルタメントの挙動が好みに合わないとして、あまり評価していません。
ドラムはワンショットの寄せ集め、スネアは最大8層
Zeddのドラムはループ素材ではなく、すべてワンショット(単発音)をタイムライン上に手作業で並べて作られています。特にスネアは1つの音色につき最大8レイヤーを重ねることもあるそうですで、200~250Hz帯を担当する“ボディ”、その少し前に鳴らす“プリクラップ”、柔らかい質感のレイヤー、後ろに薄く重なるホワイトノイズなど、役割ごとに音を分けて積み上げていく手法を明かしています。ループを使うこと自体に抵抗はなく、時間短縮になるなら普通に使うとも語っており、手法へのこだわりよりも曲の良さを優先する姿勢がうかがえます。
MIDIで作っても、すぐオーディオに変換してしまう
作曲は基本的に鍵盤で弾いて作り、MIDIとオーディオを同時に録音。MIDIで打ち込んだフレーズも、できるだけ早い段階でオーディオに変換してしまうそうです。理由は、オーディオの方が長さの調整やチョップ、タイムストレッチがしやすいから。そして本人いわく、オーディオとして扱うことで「考えすぎず、いったん決め切る」ことを自分に強制する効果もあるとのことです。後から音を変えたい場合に備えて、変換前のセッションは別名保存で必ず残しておくという実務的な工夫も語っていました。
マスタリング前段の仕上げチェーン
Zeddは自分のCubaseセッションのマスターバスに、いくつかのプラグインを常時挿しているそうです。まずLVC-Audio「ClipShifter」でトランジェント(音の立ち上がり)を整え、通常のリミッターよりも自然にピークを丸めます。次にiZotope「Ozone」で高域とステレオ感を調整しつつ軽い圧縮とマキシマイズをかけ、最後にAOM「Invisible Limiter」やFabFilter「Pro-L」で音量を微調整するという流れです。
ただし本格的なマスタリングは、ロンドンのExchange Masteringにいるエンジニア、Mike Marsh氏に依頼しているとのこと。「Stay」のマスタリングでは、それまでの鮮やかな配色から少し落ち着いた色合いへ路線変更したいという意図を伝え、高域を押さえつつ低域は温かく、うっすらとヴァイナルノイズを乗せるという仕上がりに調整してもらったと明かしています。
ボーカル編集に一曲50時間
Zeddが特に力を入れているのがボーカル編集です。1曲のコンピングに50時間かけることもあるそうで、30テイクほど録った中から単語単位・音節単位で良いところを拾い集めて組み立てていきます。Auto-Tuneについては「音をなじませるための、ちょっとした接着剤のようなもの」と表現しており、Sam Smithのようにほぼ完璧な歌唱でも必ずAuto-Tuneを軽くかけているそうです。単語単位の細かい修正にはMelodyneも使いますが、曲全体にかけると音質が劣化するため使わない、という線引きも明確にしています。
この話がDTMerに刺さる理由
Zeddのインタビューを読んで感じたのは、機材やプラグインの豪華さよりも「何を削るか」「どこにこだわるか」の判断軸の話として読める点です。整理すると、3つの軸があります。
1つ目は要素を絞る音作り。良いEDMは要素を詰め込みすぎないほうが強い、というシンプルな美学。
2つ目は手法へのこだわりを持たない柔軟さ。ループを使うか手打ちするか、MIDIかオーディオか、その都度合理的な方を選ぶ姿勢。
3つ目は仕上げは信頼できる専門家に任せる判断。自分でマスタリングまで抱え込まず、プロのマスタリングエンジニアに託すことで、曲の完成度を最大化するという考え方です。
紹介した製品の公式情報
- Xfer Records Serum(公式サイト) — 249ドル
- Lennar Digital Sylenth1(公式サイト) — 139ユーロ
- iZotope Ozone(公式サイト) — エディションにより価格帯が異なる
- FabFilter Pro-L 2(公式サイト) — 169ユーロ



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